人権を考える5分間のラジオ番組「明日への伝言板」

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  • 2016年10月31日(月)放送

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いのちを食べて、いのちは生きる
私たちは豚肉や牛肉をいただきます。でも、肉類が命ある姿から食べ物になるまでの過程を見たことがある人は少ないのではないでしょうか。それを「とても不自然なこと」と考えた映画監督の纐纈あやさんは、家畜を解体して肉にする「と畜場」を見学しました。

七百キロを超える大きな牛が倒れ、血を抜かれて絶命する。一つの命が終わる場に立ち合った纐纈さんは衝撃を受けました。さらに大きかったのは、この瞬間を人にゆだねて、当たり前のように肉を食べてきた自分の無自覚さに対する衝撃でした。
それから三年後、家族四人で子牛から育て、成長した牛を解体、販売する北出精肉店のことを知った纐纈さんは、ドキュメンタリー映画の制作を決意します。
大きなハードルがありました。北出さん一家が暮らしている所は被差別部落という地域の歴史を背負っています。北出さんの父親は、小学校で「部落の子」と言われ、学校へは行きませんでした。読み書きができないことで、大変苦労したそうです。
地元の部落解放同盟からの
「差別をなくすことに役立つなら、いくらでも協力するが、自分たちが顔を出し、町の名を出すことで子どもや孫たちがまた差別を受けるかもしれない。この大きなリスクに対し、あなたはどれだけの覚悟があるのか。」
との問い掛けに、纐纈さんは返す言葉が見付かりませんでした。
でも、あきらめきれません。地域に通い続ける纐纈さんの熱意が重い扉を開きました。
「問題が起きたときは、逃げずに一緒に乗り越えよう」
と多くの人の覚悟の下に映画作りがスタート。こうして完成した映画「ある精肉店のはなし」は高い評価を受け、今も各地で自主上映会が続いています。

纐纈さんが二年間、北出さんと同じ町に暮らして作った映画は「差別はいけない」とストレートに訴えるものではありません。家族を大切に、仕事を大切にして生きる北出家の姿を淡々と映します。その暮らしを映すことが
「『差別って変でしょ』という怒りも含めた私の表現、私の答えです。」
と纐纈さんは話します。
「自分の目で見て、声を聞いて、つながっていくことこそが、差別や偏見をなくすために何より大切。」
とも。胸に刻みたい言葉ですね。
では、また。