人権を考える5分間のラジオ番組「明日への伝言板」

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  • 2017年10月30日(月)放送

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人の値うち
今日はまず、江口いとさんが書いた『人の値うち』という詩を聴いてください。

 『人の値うち』       江口いと

何時かもんぺをはいて
バスに乗ったら
隣座席の人は
おばはんと呼んだ
戦時中はよくはいた
この活動的なものを
どうやらこの人は年寄りの
着物と思っているらしい

よそ行きの着物に羽織を着て
汽車に乗ったら
人は私を奥さんと呼んだ
どうやら人の値うちは
着物で決まるらしい

講演がある
何々大学の先生だと言えば
内容が悪くとも
人びとは耳をすませて聴き
良かったと言う
どうやら人の値うちは
肩書きで決まるらしい

名も無い人の講演には
人びとはそわそわとして帰りを急ぐ
どうやら人の値うちは
学歴で決まるらしい

立派な家の娘さんが
部落にお嫁に来る
でも生まれた子どもはやっぱり
部落だと言われる
どうやら人の値うちは
生まれた所によって決まるらしい

人びとはいつの日
このあやまちに
気づくであろうか

いかがでしたか。
この詩は、作者の江口いとさん自身の体験をもとに書かれたものです。
江口いとさんは、愛媛県で生まれ育ち、二十五歳で結婚。二児の母親となってすぐに、夫を戦争で亡くしました。その後、苦労しながら二人の子どもを育て上げます。
被差別部落出身という理由で、息子、孫の三代にわたって差別された江口いとさんは、生活の中から自然にあふれる思いや、部落差別に対する怒りを詩や短歌にしました。また、差別解消に向けた講演も意欲的に行い、多くの共感と感動を呼びました。差別のない社会が一日も早く訪れることを願いながら、生涯をかけて差別と闘ってきたのです。

先入観や誤解は「偏見」を生み、「偏見」からは「差別」が生まれます。江口いとさんの代表作ともいわれる、この詩に込められた思いをしっかりとくみ取り、偏見をなくすために、まず正しく知ること、そして相手の気持ちを考え痛みを感じる感性を大切にしたいものですね。
江口いとさんは、『部落に生まれたとて』という詩の中で、こんな一節を残しています。
「恥じなければならないのは、人を差別する淋しい心です。」
では、また。