特集海外水ビジネス

官民の力を結集
新しい産業の幕開け

 本市は20年以上にわたり、アジアを中心とした諸外国への上下水道の技術協力に取り組んできました。その技術力は世界的にも高く評価され、国際協力を通じて培った信頼関係は本市の産業振興につながる「水ビジネス」へと発展しています。今回は、本市が地元企業と連携して取り組む「海外水ビジネス」について特集します。

国際技術協力の歴史

技術指導の様子写真
▲海外で技術指導を行う職員

 東南アジアなど経済成長と都市化が著しい新興国では、上下水道の整備が追いつかず、水質汚染と水不足が深刻な問題となっています。こうした中、本市では国際協力機構(JICA)の要請を受け、平成2年から海外での技術協力に積極的に取り組んできました。これまでに各国へ派遣した職員は13カ国184人となったほか、146カ国から約5000人の研修員を受け入れてきました。

 国際技術協力では、本市でのやり方を単に踏襲させるのではなく、各国の実状に合わせた技術指導を行うことが必要です。また、整備された上下水道インフラがその国の人々の手で永続的に維持管理されるよう、人材育成にも取り組んでいます。

 中でも、11年からカンボジアの首都プノンペンで実施してきた技術協力では、飲用可能な水道水の24時間供給を実現し、漏水の早期発見や盗水の削減にも成功しました。その成功は「プノンペンの奇跡」と呼ばれ、本市はカンボジア王国から勲章を授与されたほか、今年3月の本市とプノンペン都との姉妹都市協定の締結につながっています。

信頼を強みに官民一体で取り組む「海外水ビジネス」

 平成22年、本市は官民連携による海外水ビジネスの取り組みを推進するため、全国に先駆け「北九州市海外水ビジネス推進協議会」を設立しました。現在144社の会員企業が加盟し、海外現地のニーズ調査やセールス活動を行った結果、これまで官民で43案件を受注しました。国際技術協力を通じて培ってきた各国との緊密なネットワークや信頼関係は、ビジネスチャンスとしても大きく開花しようとしています。

 25年には、本市が国内特許を有する高度浄水処理(U-BCF)を初めてベトナムへ輸出しました。U-BCFは、自然の川底の小石などに付いた微生物が汚濁物質を分解する作用を人工の装置を用いてより効果的に再現したもので、高い処理能力や安価な経費が利点です。

 また、27年3月には、ベトナム・ハイフォン市の水道マッピングシステムを、本市地元企業が初めて単独受注しました。マッピングシステムとは、配水施設の位置情報や配水管網などの詳細情報を電算機で一括管理するもので、本市が使用するシステムと同様のものが採用されました。

 さらに同年12月、本市と会員企業の共同企業体が、カンボジアの「シェムリアップ上水道拡張事業・詳細設計業務」を日本の自治体として初めて国際競争入札で受注しました。世界遺産のアンコールワット遺跡群を有するシェムリアップ市では、観光客の大幅な増加や都市化の急速な進行で、上水道設備の早急な拡張が必要となっています。

 これらは、本市の長年の経験や実績、高い技術力などが評価された結果です。

今後も期待される官民の力

 本市では、今後も積極的な国際技術協力に取り組むことで、上下水道の整備に貢献していきます。そして、広い裾野を持つ海外水ビジネスでは、官民連携による海外展開を推進することで、地元企業の産業振興につなげていきます。

国際技術協力で「きれいな水」を届けたい

上下水道局海外事業課 海外事業担当係長 松本実

海外事業担当係長係長写真

 私は下水道の専門家として、平成27年6月からインドネシアの首都ジャカルタ特別州の下水道や河川を担当する水管理局に派遣されています。ジャカルタは人口が約1千万人の大都市ですが、北九州市と違い、まだ下水道がほとんど整備されていません。家庭からの生活排水がそのまま道路側溝から河川に流れていて、とても今の紫川のようにカヌーを楽しめるような環境ではないのです。

 こちらでは、ジャカルタ特別州の職員に下水道の技術や知識を伝え、これから始まる下水道の工事や維持管理のための制度、組織の改善を提案しています。これは、これまで下水道を整備し、紫川などの水環境を再生させた北九州市の経験を生かすことができる、やりがいのある仕事です。

 ジャカルタの皆さんに気持ち良く下水道を使ってもらい、きれいな川を取り戻すための第一歩を踏み出したばかりですが、遠く離れたジャカルタで元気に頑張っています。

ベトナムで水ビジネスを展開している注目企業

Japan Advanced Water Technology Vietnam(略称:J.W.T.)社長 久保忠志さん((株)タカギから出向)

久保社長とスタッフ写真
▲久保社長(左から3番目)とスタッフ

 J.W.T.は、ベトナム・ハイフォン市水道公社と、北九州市に本社がある(株)タカギのほか5つの企業・団体が出資する合資会社です。北九州市とハイフォン市による水道事業の連携の中で、U-BCFや浄水器を普及するため、平成28年1月に設立されました。

 U-BCFは北九州市の技術を用い、低コストで効率的に水を浄化できるという点から、ベトナムの各都市から強い関心を持たれています。浄水器については、消費者の間では、まだ水の安全に対する問題意識が低く、設置費用の負担は容易でない状況ですが、10年後には事業として成り立つと予測しています。

 官民一体で社会貢献を行う事業として注目を浴びるこのプロジェクトが、成功するかどうかはこれからです。ハイフォンの市場に根付いた事業の成功と、ベトナムの生活向上の2つを実現するという夢に向けて、J.W.T.の日本・ベトナムスタッフが一丸となって今後もまい進して行きます。

【この特集に関するお問い合わせ】  上下水道局海外事業課 TEL093・582・3111

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