人権を考える5分間のラジオ番組「明日への伝言板」

メニュー

ここからコンテンツです

  • 2017年10月27日(金)放送

テーマ / HIV感染者 ジャンル検索

YouTubeで音声を再生します。

PDFダウンロード
神様がくれたHIV
今日は一冊の本を紹介しましょう。『神様がくれたHIV』。
作者の北山翔子さんは保健師で、医療ボランティアとしてアフリカのタンザニアで活動していた時に、HIVに感染しました。現地の恋人を介しての感染でした。
感染が分かってすぐに帰国した北山さんは、治療を受けながら、以前の職場に復帰します。しかし、将来への不安に加え、「この病気で保健師をしていてもよいのだろうか…」という思いにとらわれた時期もありました。

HIVとは「ヒト免疫不全ウイルス」のことで、このウイルスが原因となって発症する病気をAIDSといいます。HIVの感染経路は限られていて、主に性行為による感染、それ以外には輸血や刺青、薬物のまわし打ちによる感染、母親から赤ちゃんへの母子感染があります。
HIV感染の当事者となった北山さんは、この病気になって初めて、自分自身の中にもHIV感染に対する、自分のことではないという「他人ごと意識」があったことを痛感しました。
不特定多数の人と関係を持っている人だけが感染する病気ではなく、自分の恋人や夫が感染していたら、自分も感染するリスクが高いのです。
「HIV感染症は、誰にでも起こるかもしれない病気なのに、当事者になるまでは他人ごとなのです。まさか自分のパートナーが感染しているとは思いません。私もその一人でした。」
と北山さん。
そんな彼女を支え続けてきたのは、タンザニアで一緒に仕事をしていた現地のナースの言葉でした。
「神様は、その人が乗り越えられるだけの苦労をお与えになる。」 
やがて北山さんは、感染のショックから立ち直り、病気を受け入れます。そして、保健師でHIVに感染している立場の自分だからこそできることがあるはずと、仕事のかたわら、HIV予防の講演活動などを行うようになったのです。

現在では新しい治療薬が次々と開発され、HIVに感染していても、薬を規則正しく飲むことでAIDSの発症を抑え、天寿を全うできるようになっています。早期に検査を受け、治療を始めることが大切です。
HIVやAIDSに対する「他人ごと意識」を解消するためにも、まずは当事者の経験に学びたいものですね。
では、また。

■出典 北山翔子『神様がくれたHIV』/紀伊国屋書店