人権を考える5分間のラジオ番組「明日への伝言板」

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  • 2018年11月14日(水)放送

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LGBT~ゲイバーを訪ねて~
今日は、LGBTをテーマにお話しします。
実際にあった出来事をもとに構成したお話です。

「いらっしゃいませ。」

ゲイバーに、生まれて初めてAさんは入った。

「何にしましょう。」
「あっ…水割りで。」

Aさんは、市役所の職員だ。この春、人権啓発に関する職場に赴任した。人権について、精力的に本を読んだり、研修を受けたりする中で、LGBTについても学んでいた。
そしてある日の仕事帰り、当事者の話を聞くことができないかと、知人に紹介してもらい、この店を訪ねた。

「はい。ウイスキー水割りです。」

カウンター越しに立つのは、少しきゃしゃな細面の男性。年は三十代後半だろうか。ポロシャツにジーンズ。見た目も言葉遣いも、ごく普通の男性だ。想像していたゲイのイメージとは違った。
ゲイの人と話すこと自体、初めてだった。最初は緊張したが、お酒も入り、少しずつ店の雰囲気にも慣れてきた。
思い切って質問してみた。日常生活で困ることはないか。カミングアウトはしているのか。
店員は、淡々とした口調で、その一つ一つに、丁寧に答えてくれた。
そしてAさんは、以前から気になっていたことを尋ねてみた。

「男性を好きになるって、どんな気持ちなんですか?」

少しでもゲイの心情を理解したいと一生懸命だった。
短い沈黙の後、さらに続けた。

「子どもって、男女に関係なく愛らしく感じますよね。それに似た感情ですか?」

店員は、その問いかけに答えず、つぶやくように言った。

「あんた、無理してるんやない?
あんたは、一生懸命ゲイを理解しようとしている。でも、私にはあんたを理解できないように、あんたにも私を理解できないと思う。」

言葉が出なかった。言われてみれば、その通りだ。男性を好きになる気持ちが分からないのは、ゲイである彼に女性を好きになる気持ちが分からないのと同じなのだから。
 
いかがでしたか。
Aさんは最後にこんなことを言われたそうです。「無理する必要はないよ。私たちの心情を理解してもらわなくてもいい。私たちがこうして暮らしていることを、ごく自然なこととして認識してもらえたら、それで十分だ。」と。
では、また。