今日は、『招かれなかったお誕生会』という詩を紹介します。作者は、人権の詩人・江口いとさん。被差別部落の出身という理由で、息子、孫の三代にわたる差別を経験してきました。
まずはお聴きください。
『招かれなかったお誕生会』 江口いと
孫は小学四年生 かわいい顔した女の子
仲良しA子ちゃんの誕生会
小さな胸にあれこれと 選んで買ったプレゼント
早く来てねと友の呼ぶ 電話の声を待ちました
夕陽が山に沈んでも 電話の声はありません
孫はポツリと言いました
きっと近所のお友達 おおぜい遊びに行ったので
お茶わん足りずにAちゃんは 困って呼んでくれないかも
二、三日たった校庭で
A子ちゃん家での誕生会 楽しかったと友人に
聞かされた孫はA子ちゃんに
どうして呼んでくれないの 私はとても待ったのよ
A子ちゃんとても悲しい顔をして
私は誰より千恵ちゃんを呼びたく呼びたく思ったの
けれども私の母ちゃんは 呼んではならぬと言ったのよ
それで呼べずにごめんねと あやまる友のその顔を
見つめた孫の心には どんな思いがあったでしょう
私は孫に言いました
お誕生会に招かれず さびしかっただろうねと
孫はあのねおばあちゃん
A子ちゃんとても優しいの 私の大事なお友達
A子ちゃん悪くはないのよ お母さんが悪いのよ
大人ってみんな我ままよ
寂しく言った孫の瞳に 光る涙がありました
どんなするどい刃物より 私の胸を刺しました
いかがでしたか。
江口いとさんは、わが子の就職差別をきっかけに、生涯かけて全国で三千回以上の講演を行ってきました。「就職でも、結婚でも、はては孫の誕生会まで、なぜ…」と訴え続けてきたいとさん。大人の根深い偏見が、子どもたちに誤った行動をさせてしまう怖さがこの詩からも伝わってきます。
二〇一六年には、部落差別のない社会を実現することを目的とした「部落差別解消推進法」が施行されました。それでもなお、インターネット上には差別や偏見につながる動画や書き込みがあり、今も苦しんでいる人たちがいることを、私たちは決して忘れてはいけません。
大切なのは、私たち一人一人が同和問題について正しい知識を身につけること。そして、今日のような詩を聞く中でも、「もしも自分だったら…」と考えてみることではないでしょうか。
では、また。



