
市長からのメッセージ
昨年は、この北九州のまちに、60年ぶりとなる人口社会増という、何よりもうれしい希望の光が灯りました。これは、市民一人一人の皆さまが、このまちを愛し、大切に育んでくださった、確かな「つながり」の力の証です。
しかし、立ち止まっている余裕はありません。子育て、健康、そして老朽化するインフラ。どれも一朝一夕には解決できませんが、「子や孫の世代に自信を持って未来を引き継ぐ」ことを目指し、皆さまと共に、進んでまいります。
今年も、人情味あふれる北九州市の温かさを土台に、一歩一歩、確実な未来を「育んで」まいります。
どうか皆さまにとって、健やかで幸多き一年となりますよう、心よりお祈り申し上げます。

町田そのこさん・作家
1980年福岡県生まれ。2016年『カメルーンの青い魚』で「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞。翌年、同作を収録した作品集『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』でデビュー。2021年、『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞を受賞。北九州市文化大使。
まちと人のおせっかいな優しさを、北九州市から
門司港を舞台に、人と人との関わり合いを描く小説「コンビニ兄弟」シリーズが、NHK総合でこの春、ドラマとして放送されます。本屋大賞受賞作『52ヘルツのクジラたち』などで知られる北九州市ゆかりの作家・町田そのこさんが、地元の魅力をぎゅっと詰め込んだ物語です。
武内市長と町田さんが、「コンビニ兄弟」に込めた思いや門司港・北九州市のまちの魅力、本や物語がくれる小さな光について語り合いました。
「地元の魅力を書けば他の地域の作家さんよりうまく書けるのではないか」
市長 町田さんの「コンビニ兄弟」5作目が11月28日に発売されて、いよいよドラマ化も発表されました。北九州市にとっても大きなことですし、本当にうれしいことです。
町田さん(以下、敬称略)夢みたいで、半信半疑の気持ちもあります。「コンビニ兄弟」を書き始めた時はまだ新人で、誰も私の本を読んでいないのではないか、と不安に駆られていました。地元の魅力を書けば他の地域の作家さんよりうまく書けるのではないか、という希望から始まったのですが、こんなに大きく成長するとは。地元の方々も応援して愛してくださり、うれしいばかりです。
市長 「コンビニ兄弟」は韓国、台湾でも人気を博しています。今回のドラマ化を機に、門司だけでなく北九州市の皆さんにも読んでいただきたい。そして、北九州市・門司の持っているまちの魅力や、人の関わり合いの素晴らしさを思い起こすきっかけになればと思っています。
コンビニから見える、人と人とのつながり

市長 あらためて、「コンビニ兄弟」という作品で表現したかったことを教えていただけますか。
町田 人と人とのつながりって加減がとても難しいですよね。ともすれば「おせっかい」と言われる気遣いもある。でも、「あの人の手助けがしたい」という気持ちが尊いことに変わりはない。そういう心を作品に込めているつもりです。
市長 確かにコンビニって、声をかけ合ってつながることもある一方で、それぞれが距離を置いて関わらない姿もありますよね。その時代の人の関わり合いが凝縮されて現れる舞台になっているのかもしれません。
町田 日常に溶け込んでいるからこそ、そこに一番人と人との関係が浮き彫りになりやすいんじゃないかなと思ってます。
「逃げ込めた」門司港という場所

市長 門司港のまちの魅力は、どんなところにあると思いますか。
町田 私は学校で授業についていけない時、門司港に行っていたんです。海を見ながらお弁当を食べて本を読んで。家には帰れないし学校にも行きたくない……それを、私には居場所がないのだと思っていました。自分の情けなさやふがいなさ、みっともなさと向き合う場所が門司港だったんです。そんな門司港は「つらさから逃げ込める場所」でもありました。私の負の感情をただ受け止めてくれるというか……。私の思う門司港の魅力は「どんな感情を抱いていても受け入れてくれる場所」ですね。
市長 包容力というか奥行きがあるというか、そういうところを感じられるまちですね。
町田 多くの観光客を迎えている場所だからでしょうか、人と人との距離感もほどよいと思っています。ぼうっとしている時に、「あっちのお店おいしいよ」とか「雨降ってるから雨宿りしていきな」とか声をかけてもらったこともあるんです。
物語は、人を生かし、人を育てる

市長 町田さんが本を好きになったきっかけや、本を読み続ける動機は、今のお話ともつながっているんでしょうか。
町田 小学生の時にいじめに遭っていて、教室に自分の居場所がない時は、大好きな本を持ってトイレに行って読んでいました。本の中の希望に救われていたんです。大好きな作家さんの新刊情報を見て、「来月になったらまた続きが読める」。それを待つことで、いじめに耐えてきました。
だから私は、本は人を生かすし人を育てるという理念のようなものを持っているんです。そこを守りながらこれからも書き続けていくんじゃないかなと思います。
市長 今の時代、孤独を感じたり理不尽さを抱えている人にこそ読んでもらいたいですね。
町田 自分が苦手な人でも、好ましく思う一面を持っているかもしれない。深く共感する部分があれば、世界すら変わるかもしれない。そういう、人や世界を見る角度を変えるきっかけをくれるのが物語だと思うんです。私は物語によって救われたし、心を育てることができた。おこがましいですが、私の読者さんたちにも同じような読書体験をしてもらえたらうれしいです。
市長 私も日々忙しくする中で、そこから癒やすために本を読むっていうのが大事な要素になってますね。試験前になると小説を読みたくなるのと似てますよね。
町田 あと大掃除の途中とか。「今じゃない!」と思うけど、出てきた本を読んで続きも探しちゃって大掃除終わんないんですよ、それ年末の私ですよ(笑)。

読んで、訪れて-物語の舞台・門司港へ
市長 「コンビニ兄弟」は、門司港レトロともタイアップ企画が行われています。作中のコンビニをイメージしたフォトスポットや、言葉と景色が融合するアート展示など、小説の世界観を体験できる仕掛けが用意されています。
町田 門司港のまちの魅力は、書いても書いてもまだ書き足りない、まだ3割くらいしか書けていないんじゃないかと思っているので、これからも書き続けていきたいです。
市長 ぜひ、多くの方に「コンビニ兄弟」を読んでいただき、ドラマも楽しんでいただきたいですね。そして、本やドラマをきっかけに門司港のまちを歩いて、人と人とのつながりや「おせっかいな優しさ」を感じてもらえればうれしいです。
2026年の挑戦

市長 最後になりますが、2026年、どんな1年にしたいですか。
町田 飛躍の年にしたいです。作家になって10年になるので、これまでのチャレンジの成果を出したい。これまで以上に質の高い物語を書く年にしたいです。
市長 ぜひ素敵な1年にしていきましょう。ありがとうございました。
町田さんの「作家」に対する思いなど、
貴重なお話も盛りだくさん!






どんなスタイルで読書しますか?
町田さん