特集進めよう! 人権文化のまちづくり |1ページ|2ページ|

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7月は福岡県同和問題啓発強調月間です

 「人権」。それは、誰もが幸せに生きるための権利です。しかし、今なお悪質な部落差別の落書きがあったり、インターネットでは個人などを誹謗(ひぼう)中傷する書き込みがなされたりしています。次の作文は、少年時代の体験を「宝物」とし、差別をなくしたい、それを後の世代へも引き継ぎたいという願いを語った作品です。その「宝物」は「お互いの人権を尊重する」という社会の在り方そのものでもあります。こうしたまちづくりを市全体で進めていきましょう。

「私の宝物」

藤原 信行(兵庫県) 平成21年度 北九州市募集「人権作文」の入選作品

 今から四十年も前、私が小学校四年生の時の話である。私は友人I君の誕生日会に招かれた。当時、誕生日会なんて時代的にも、また、神戸の下町に住むわれらにとってはなおさらのこと、大変珍しいイベントであった。

 当日の放課後、私は主役のI君から、S君も連れてきてほしいと頼まれた。私とS君とは特別親しいというわけではなかったが、近所だし断る理由も無く「分かった」と返事をして別れた。

 家に戻り、一張羅の服に着替えさせてもらいプレゼントを持って出掛けた。その道すがら、私はS君を誘いに彼の家に立ち寄った。その時の光景を今でもはっきりと覚えている。S君はお米をといでいたのである。自分の母親が普段していることを同級の彼がしていたのである。傍らに小学校に上がる前の幼い弟がおとなしく座っていた。私はそんな彼らを見て一瞬言葉に詰まった。ためらった。少し間が空いたが私は訪問理由を告げた。彼はといでいたその手を止めて少し考えてこう言った。「このままの格好でいいか?」と。彼は汚れてツギ当てだらけのズボンをはいていた。そして、何か不安げな弟を安心させるかのようにさらにこう続けた。「弟も一緒に連れていっていいか?」と。「ええんとちゃう」と私は返事をした。彼は少し安心した様子で「分かった」と応えた。それからの私はI君の家に着くまで何やら憂うつな気分になった。これで良かったのだろうか…と、さっき、あんないい加減な受け答えをしたことを後悔した。彼が『行かない』って断ってくれたら良かったのに…とさえ思っていた。

 そう。私はI君の両親や集まる友人たちの目を恐れていたのである。お金持ちの、しかも誕生日会に行くのにそんな身なりでいいのか…。いくら頼まれたとはいえ、誘ったことでS君に嫌な思いをさせるのではないか…。恥をかかせることになりはしないか…。少しも楽しい気分ではなくなった上に、何かドキドキしながらI君の家に向かったのを今でも覚えている。

 そして、訪問を告げたら、真っ先にI君のお母さんが出てこられた。私の緊張は最高潮に達した! その瞬間! I君のお母さんは満面に笑みをたたえて「S君、Tちゃん(S君の弟)、よく来たわね~」と言って彼ら二人をしっかりと抱き締めたのである。私はこの時の光景を思い出すたびに涙が出そうになる。

 『良かった~』という安堵感。私はうれしかった。思えば…。私のあの時の不安はどこから来たのか? S君が皆からさげすんだ目で見られるのではないかとの思いは、どうしてそう想像するようになったのか? 答えは簡単である。すべて自分を取り巻く周りの大人たちの言動の刷り込み(または受け売り)だったのである。それをI君のお母さんは見事に断ち切ってくれたのである。数年後、私は中学生となり、初めて「被差別部落」という言葉と、「同和」という言葉の意味を知ることになる。

子どもイラスト 私はその後の人生において、この手の問題に積極的に参画し取り組んできたわけではないが、少なくとも自分たちの親の世代のある人がなくそうとしていた「時代遅れ」のものを自分たちの代で復活させるわけにはいかない! という信念だけは持つことができた。そして、それは後の世代へも引き継ぐ責任があると信じて生きてきた。今後もこの思いは変わらない。

 私はこの世で一番大切なことをI君のお母さんから教わった。

 これが少年時代にもらった、私のかけがえのない宝物である。

■人権について考えてみませんか

問い合わせは人権推進センター人権文化推進課(〒803―0814 小倉北区大手町11―4、TEL093・562・5010)。

人権問題啓発映画「声を聞かせて」テレビ放映

 7月2日(金)14時5分~14時59分、TNCで。

人権・同和問題啓発映画映写会・講演会

 映画「おーい!」の上映と、人材育成コンサルタント・辛淑玉さんによる講演会「差別と日本人」。7月22日(木)13時30分~16時15分、ムーブ(小倉北区大手町)で。入場無料。

人権に関する募集

(1)人権作文と人権週間の標語・ポスター
●人権作文
テーマは「あなたが伝える『明日への伝言板』」。人権にかかわる思いや、日常生活の中で感じた「ありがとう」を伝える話など。作品は400字詰め原稿用紙3~4枚。1人1点。賞は最優秀賞(1点)賞金10万円、優秀賞(4点)賞金7万円など。
●標語
賞は入選(10点)3万円分の商品券など。
●ポスター
大きさはB3判。描画。画材は自由。「人権週間」と「12月4日~10日」の文字を必ず記入。賞は最優秀賞(1点)5万円分の商品券など。(1)共通の内容 対象は15歳以上(中学生は除く)。自作、未発表のもの。作品は返却しません。入選作品の著作権は、北九州市に帰属します。なお、人権作文、ポスターは、発表するときに補作することがあります。申し込みは作品の裏(標語は、はがきか募集チラシ)に住所、氏名、年齢(学生は学校名と学年)、電話番号を書いて人権作文は8月31日まで、標語・ポスターは9月30日までに問い合わせ先へ。標語の募集チラシは各区役所まちづくり推進課・出張所、各市民センターでも配布中。
(2)ふれあいフェスタの出展団体

 対象は人権や福祉に関する活動を行い、日ごろの活動成果の発表・展示・販売等をする団体や施設など。12月5日(日)10~15時、西日本総合展示場(小倉駅北側)で。募集は50区画(1区画3m×3m)。出展無料。申し込みは8月31日まで。詳細は問い合わせ先へ。

(3)人権の約束事運動「ほっとハート北九州」への参加登録

 対象は北九州市内の企業・施設や個人のグループなど。登録無料。詳細は問い合わせを。

人権に関するご相談を

 人権に関することでお悩みの人は気軽にご相談ください。人権擁護委員が応じます。相談無料。

●人権相談専用電話
TEL093・562・5088
●受付時間
月~金曜日(祝・休日、年末年始は除く)の8時30分~12時、13~17時

【この特集に関する問い合わせ】 人権推進センター人権文化推進課 TEL093・562・5010

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