取組紹介

レポート

更新日 : 2022年2月24日

「KitaQ Zero Carbon」とは?脱炭素の現状とビジネス展開

北九州市は2022年1月17日より「KitaQ Zero Carbon」プロジェクトを開始しました。

市内の企業や個人事業主、教育機関、市民の皆さまに向けて、イベントやセミナーの開催、取組事例等をご紹介し、脱炭素への理解促進、アクションの啓発と可視化を目指すプロジェクトです。

本セミナーレポートでは、2022年2月2日に開催した『「KitaQ Zero Carbon」とは?脱炭素の現状とビジネス展開』セミナーの内容をレポートします。

70名を超える参加者が集まり、登壇者との活発なQ&Aが繰り広げられた熱のこもったセミナーとなりました。

「KitaQ Zero Carbon」とは?脱炭素の現状とビジネス展開

1KitaQ Zero Carbonとは?

北九州市環境局グリーン成長推進課長 工藤 里恵

はじめに、北九州市環境局グリーン成長推進課長 工藤より北九州市の脱炭素に向けた取組や意義、そして「KitaQ Zero Carbon」プロジェクトの趣旨と内容について講演しました。

北九州市の脱炭素の取組

今世界では、異常気象によって国内外で深刻な災害が多発しています。

気候関連の災害による被害額についても過去20年と比較して2.5倍となっており、まさに「気候危機」といった状況に直面していると考えられます。

このような状況下で、世界各地で脱炭素化に向けた動きが高まっており、日本においても2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言しました。

このような流れを踏まえて、北九州市も脱炭素に向けた取組強化を進めています。

国と同じタイミングで「ゼロカーボンシティ」宣言し、2030年までにGHG(温室効果ガス)の排出を47%以上削減することを目標としました。

これは、GHG削減を進めながら、市内の産業における競争力強化を図り、街の魅力を高めていくといった経済と環境の好循環を実現することだと考えております。

そのためには、市からの情報発信を強化し、市民、企業、教育機関が一体となって取り組むことが必要となります。

こうした背景から本プロジェクトである「KitaQ Zero Carbon」プロジェクトを始動しました。

「KitaQ Zero Carbon」とは

 「KitaQ Zero Carbon」プロジェクトは、北九州市の「市民環境力」を活かして、市民、企業の皆さまと共にアイデアを出し合い、一体となった取組を進めていくため、立ち上げました。

 このプロジェクトは、脱炭素に関するポータルサイトを通じて、積極的な情報発信と、actcoinのプラットフォームを活用したアクションの見える化を目指します。

特徴は大きく3つあり

(1)脱炭素関連情報の一元化と積極的な情報発信

これまでバラバラに掲載されていたイベントや各種企業さまへの支援情報等の脱炭素関連 情報を整理し掲載すると共に、SNSと連携した積極的な情報発信を推進します。

(2)個人のゼロカーボンアクションの見える化

既存プラットフォームのactcoinと連携し、個人のアクションをポイント化し、アクションの可視化ができるようにしています。

(3)市民・企業の皆さまが参加できる各種イベントの開催

温暖化対策への理解や、実際に体験し脱炭素に貢献できるイベントの開催を企画していきます。連携してイベントを開催を実施したい等のご相談も受け付けております。

今回のセミナーをきっかけに、市の脱炭素に向けた動きが加速し、産業の成長と都市の魅力向上ができるよう、「KitaQ Zero Carbon」プロジェクトを推進していきたいと思います。

2気候変動と脱炭素の現状・ビジネスへの展望

京都大学大学院教授 諸富 徹

続いて第2部のパートでは、京都大学大学院教授 諸富徹氏に日本・世界での流れと、北九州市のような産業都市がどのように脱炭素化していくかに焦点を当てながら講演いただきました。

ビジネスへの影響

日本が2020年10月に表明した「2050年までのカーボンニュートラル」から急速に産業界でも大きな変化が産まれてきており、例えば、省エネや電化の推進、エネルギーにおける「非化石化」、再生可能エネルギーの主力電源化、鉄鋼製鉄業業界においては、熱源として水素の利用等がキーワードとして出てきています。

その背景には、金融や投資分野における流れがあり

  • 1.CO2を出し続けるような生産プロセスを持つ企業から投資を引き上げる動きが増加。
  • 2.脱炭素に向けた活動をする企業と、そうではない企業の整理が進む。
  • 3.サプライチェーンにおいて、納入先の大企業から「再生可能エネルギー100%達成」への要求が高まり、取引解消の要因となる。
  • 4.併せて、カーボンプライシングの導入等も進み始めている。

エネルギーコストの上昇や、投資の減少、カーボンプライシングによる負担の増加等、企業にとっては、脱炭素化を推進しなくては、様々な不利益を被る懸念があります。

何が求められるか

このような社会的状況下において、以下の推進が必要になってきます。

  • 1.自社のエネルギー使用量を把握する。
  • 2.省エネの可能性を追求する。
  • 3.使用電力の再エネ比率を引き上げる。
  • 4.コスト要因ではなく、新しいビジネスや付加価値創出のチャンスと捉える。

北九州市は風力発電に注力しており、脱炭素化の街になっていくため、このようなエネルギー転換は非常に重要なポイントとなります。

産業都市としての脱炭素トランスフォーメーション

産業都市として、脱炭素化を推進する上では、経済の「非物質化」と「脱炭素化」という2つの動きが同時進行で進んでいく状況下における、企業の対応が重要になります。

「非物質化」への対応

  • 1.有形資産から無形資産へのビジネス転換
    デジタル化等で、生産や消費の非物質化が今後も進んでいく。
  • 2.製造業のサービス化
    ものづくりだけでなく、サービス化への転換が必要。

「脱炭素化」への対応

  • 1.EVへの転換等、産業構造の変化
  • 2.電源の脱炭素化
  • 3.エネルギー集約産業の脱炭素化
    電化や水素を用いた製造過程への転換

アメリカではすでに有形資産への投資から無形資産への投資が逆転しており、現在では、その差が大きく開いている状況にあります。

脱炭素に向けては、2050年まで7割以上のエネルギー転換が必要であり、「エネルギー転換において莫大なコストがかかり、経済の足手まといになるのでは?」といった意見もありますが、投資の増加や普及による発電コストの減少による利益、より付加価値の高い産業転換を鑑みると逆に成長することが予測されます。

また、日本の2050年脱炭素に向けたシュミュレーション結果では、エネルギー転換が最も重要な施策であり、北九州の進める風力発電への取組の意義が非常に高いのです。

3トーク&QAセッション

第3部では、プロジェクトを協働している株式会社メンバーズの原裕氏にファシリテーションいただき、諸富氏とグリーン成長推進課長 工藤に加え、北九州市立大学教授の牛房義明氏、特定非営利活動法人I-DOの濱田千夏氏をお迎えし、それぞれの活動についてご紹介頂くとともに、参加者からの質問にお答えする形式でトークセッションをしました。

原氏

「KitaQ Zero Carbon」プロジェクトについての印象は?

牛房氏

公害克服の街で、市民からの活動によって達成できた経験があるため、脱炭素においても同様に、市民や地元企業が連携しながら進めていくことが求められていると感じています。

原氏

製造業の街である北九州市が目指す脱炭素はチャレンジングではないでしょうか?

グリーン成長推進課長 工藤

チャレンジングなことではあるが、この脱炭素をチャンスと捉えることで、取組の姿勢が変わると思っています。

市民の皆さまによるボトムアップの取組と企業様によるリーディング的な取組を合わせて、同じ方向を向いて推進していける雰囲気や気運を作っていきたいです。

原氏

1つのセクターだけが実施すれば良いわけではないのが脱炭素化です。
それぞれの立場でどのような活動を濱田さん、牛房さんはされていますか?

濱田氏

駐輪事業を「街づくり」の視点で、大学生と共に進めています。
ナッジ理論(そっと後押しする)に則り、学生と共にマナー向上に取り組んでいます。
今後、脱炭素における取り組みとして、デンマークのコペンハーゲンの街にある自転車の利用数を視覚化したことで、環境に良い街への気づきを市民が感じることができると思います。

牛房氏

北九州市のゼロカーボン先進街区に住民として住んでおり、タウンマネジメントの代表理事をやっていました。

ゼロカーボンレポートを配布し、自宅でどれだけエネルギーを使っているのか?作っているのか?を可視化、配布しながら、住民の行動が変わるかを効果検証していました。

可視化することの大切さ、脱炭素の取組は、上意下達ではなく、市民の皆さまや教育機関の方々による活動や知恵が非常に重要と思われます。

次に、参加者の方々からの質問にお答えしました。

Q.再生可能エネルギーの普及において、スタートアップが重要です。
とはいえ設備産業のため、IT産業からスタートアップが生まれにくいイメージがあります。政治や行政がどのように関わっていくべきでしょうか?

濱田氏

公共サービスやその担い手の多様化が重要だと思います。
IT含めて、ユーザーが主体的な選択ができる仕組みを行政と共に進めていくことが大事です。
小さい交通のように、ユーザーの利便性視点での活動も出てきているので、このような領域においても行政との関わりが強化されればと思います。

グリーン成長推進課長 工藤

再エネの普及においては、VPPやアグリゲーターのようなエネルギーをどのように上手く利用していくかというマネジメント面で、IT企業の参入が期待できると思います。スタートアップへの支援はもちろんのこと、確立されていない技術に対して、実証の場を行政が一緒になって実施できればと考えています。

行政とプレイヤーの関わりという流れから、シュタットベルケを諸富氏からご説明頂きました。

諸富氏

シュタットベルケ(Stadtwerke)は、日本語で都市公社とも訳されますが、都市のインフラ建設や管理を行う、市が100%出資した公的企業を意味します。
日本との違いは、ドイツではエネルギー(電気・ガス・熱)の事業を実施しており、こちらで得た収益を基に、地域交通や市営空港等のインフラビジネスを支えています。
ドイツでは「官」がその役割を担っていますが、日本版シュタットベルケにおいては、官民連携で進んでいます。今後、電力やエネルギーの分散化により、天候等によって電力供給が左右されるケースも出てくるため、そのような場合に、全体の電力需給を安定化させるためのプラットフォームとして重要になってくると思われます。

Q.脱炭素・環境問題に対して、企業も推進すべきだが、企業が負担する費用も発生する。企業規模もあるため、ちょうどよいバランスの取れた取組はどのようなものがありますでしょうか?

諸富氏

エネルギー集約型の産業にとっては、大変なことです。
ヨーロッパの事例を見ても、国の支援や補助が入らざるをえないと思われます。
ルール形成や、TCFDのように取り組みによって脱炭素投資に資金が集まる仕組みを作っていくことで、行動を促す仕組みを作っていくことが大切だと思います。

消費者もそのコストを負担していく時代になってきているのかもしれません。
消費者側の意識を変える方向になってきているのではないでしょうか。

牛房氏

BtoCの世界では、商品開発からユーザーが入り「環境に優しい」「地球温暖化に対応する」製品開発は可能だと思います。
デザイン思考等の手法やインクルーシブデザインを使うことで、エネルギー分野に応用できないかなと考えております。
大学生からアイデアを集めて、事業者や行政の方々と連携した取組を進めていきます。

濱田氏

消費者の目線では、応援したいと思う商品を買うようにしています。
環境・脱炭素についても、「こんな街になってほしい」という想いは、北九州市方々が強く持っているため、どのようにコミュニケーションし行動を変えていくかを考えたいです。

この他にも多数の質問がありましたが、本レポートのスペースの関係上、割愛させて頂きました。
ご参加頂いた皆さまから予定時間内に収まらないくらいの多くのご質問を頂き、大変熱のあるトークセッションとなりました。

以上がセミナーでの講演並びにトークセッションの内容となります。
ご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。

本レポートをご覧いただいた皆さまにとって「KitaQ Zero Carbon」プロジェクトへの参加や脱炭素化に向けたアクションを検討するヒントとなれば幸いです。

最後に、「KitaQ Zero Carbon」の第2回オンラインセミナーについてご案内です。
皆さまのご参加、お待ちしております。

第2回セミナー詳細

企業の先進事例から学ぶ脱炭素ソリューション

「KitaQ Zero Carbon」プロジェクトの第2回セミナーとして、国内外の先進的な脱炭素に向けた事例、実施背景やプロセスをご紹介すると共に、GHG(温室効果ガス)排出量の見える化における具体的なアクションや進め方や脱炭素ソリューションについてお話しいただきます。
今や企業にとって脱炭素化は必要不可欠です。どのように脱炭素に取り組んでいくことができるのか、企業の先進事例も含め実践的な情報をお伝えします!

▼参加申し込みフォーム▼
  • 開催日時
    令和4年3月4日(金)14:00~15:30
  • 申込締切
    令和4年3月2日(水)
  • 参加形式
    オンライン(zoom)
  • 参加費
    無料
  • 次第
    • ①「KitaQ Zero Carbon」プロジェクトとは?
    • ②脱炭素をビジネスに変える企業の国内外の先進事例
      ハーチ株式会社
    • ③「見える化」から始める脱炭素アクション
      一般社団法人エネルギーマネジメント協会
    • ④脱炭素ソリューションの事例
      九州電力株式会社
      西部ガス株式会社