「風力発電関連産業の総合拠点」形成に向け、2011年から若松区響灘地区を中心に進めている「グリーンエネルギーポートひびき」プロジェクト。国が世界に向けて「2050年カーボンニュートラル(2050年までに温室効果ガス排出の実質ゼロを目指す方針)」を打ち出す中、いよいよ令和4年度(2022年度)から、響灘の港湾区域において、公募選定事業者による大規模洋上ウインドファーム(※)の建設工事が始まり、令和7年度(2025年度)には25基の風車が運転開始する計画です。とはいえ、洋上風車の設置はゴールではなく、あくまでスタートライン。
この洋上ウインドファーム事業を呼び水に、幅広い関連産業が生まれ、地域経済の活性化や北九州全体のにぎわいにつながっていくことでしょう。新たな産業が、ここ北九州市で生まれ、形になろうとしています。
本市が目指す風力発電関連産業の総合拠点とは?
国から西日本で唯一指定を受けた洋上風力発電の基地港湾を核に、風車積出拠点、風車部品の輸出入・移出入拠点、O&M(※)拠点、産業拠点の4つの拠点機能を備えるものです。風力発電に不可欠なさまざまなサービスを絶え間なく提供する体制をつくることこそが、日本の洋上風力発電を持続可能なものとすることにつながると考えています。
※O&M(オペレーション&メンテナンス) 風車の運転・管理やメンテナンス。

なぜ北九州に?
洋上風力発電には、大型の風車部品を取り扱うことができる港湾施設や広大な産業用地、それを支える幅広い産業の集積拠点が重要です。また、年間を通じて風が強いことや再生可能エネルギーに関するノウハウや経験の蓄積も不可欠です。
これらの条件がそろっている本市は、開港130年を超える北九州港や、官営八幡製鐵所操業以来120年のモノづくりの歴史を持ち、公害克服を経てSDGs(※)未来都市として環境問題にも積極的・継続的に取り組むなど、これ以上ない最適地。まさに「北九州らしい」「北九州ならでは」の取り組みと言えます。
※SDGs…持続可能な開発目標。

どんな効果が生まれるの?
最大の目的は「新しい産業」の創出です。洋上風力発電は、調査から部品の調達・製造、組み立て、建設、O&M及び海陸の物流に至る関連産業の裾野の広さが特徴。本市のモノづくりを長年支えてきた地元企業はもちろん、新たに誘致する企業も含めて雇用の広がりなど地域経済の活性化が期待されます。
一般的には、企業誘致や雇用の増加により、税収が増えることで市民サービスの向上が図れるなど、さらなる相乗効果をもたらします。また大学をはじめ、風力発電を中心に再生可能エネルギーや環境問題を学ぶ教育・研究機関のさらなる充実も想定されます。

北九州と日本の未来を視野に、洋上風力発電と向き合う人たち。
北九州から発信し、新たな産業を広げる挑戦

株式会社北拓
伊藤嘉隆さん
北九州は洋上風力発電推進の最適地
当社は北海道を拠点に、発電用風車のメンテナンス事業を全国で展開する企業です。響灘地区では、洋上風車の陸上実験設備を有し、実証研究やメンテナンスのトレーニングなどを行っています。今回のプロジェクトに参加した決め手は、北九州市が大規模な港湾インフラやモノづくり関連企業の集積など、洋上風力発電を進める上で欠かせない条件を高いレベルで満たしているから。市の担当部署も皆さん熱心で、日々やり取りを重ねながら二人三脚の感覚で事業を進めています。このように、風力発電を推進する条件が高いレベルで整い、行政の熱意も高い北九州市は、風力発電の産業化に最も適した都市だと思います。

▲浮体式洋上風車
風車メンテナンスは、アメリカでは「なりたい職業」ナンバー1
世界的に見ると、風力発電の先進地は欧州です。風車本体も欧州製が主流で、今回の実証実験にはデンマーク製の風車を用いています。台風をはじめ変化に富んだ日本独特の風の中で欧州製の風車が問題なく使用できるかどうかなど、実証研究の課題はさまざまです。O&Mのノウハウも基礎から積み上げる必要がありました。また、当社のこれまでの取り組みは、部品メーカーや制御システムの開発会社など、多様な業種の企業と共同で進めています。このような取り組みを通して、風車の建設や運転に関わる課題はほぼ解決できています。令和7年度の洋上ウインドファームの本格稼働を視野に、まもなく風車の基礎部分の詳細設計が始まるところです。

▲風車メンテナンス
欧米の若い世代には風力発電業界が大人気で、アメリカでは風車のメンテナンス技師が「なりたい職業」ナンバー1になったこともあります。日本の若者にも、ぜひ洋上風力発電の未来に注目してほしいと思います。
いずれは、日本、そしてアジアにおける風力発電関連産業の総合拠点に

港湾空港局 エネルギー産業拠点化
推進課 伊東 信二係長
本市のこれまでの歴史や可能性を踏まえ、「これぞ北九州」という取り組みとして何ができるか。2011年から10年以上をかけ、先人の思いをつなぎ、膨らませながら育み、取り組んできました。これまで、欧州の先進地に学びながら、まず、洋上風車を陸上に設置し、必要なデータ収集を行うなど実証研究を経て、国内最大級の洋上ウインドファーム事業を誘致するに至りました。現在、総合拠点形成に向け、その核である基地港湾を整備しています。さらに、基地港湾を利用する事業者の掘り起こし、地元企業や誘致企業の業界参入・立地支援を行っています。今後も、浮体式の展開や風車のさらなる大型化への対応など将来を見据えつつ、日本、そしてアジアにおける洋上風力発電の普及に貢献できるよう、拠点機能の強化を図っていきたいと考えています。
「洋上風力発電のまち北九州」を市民みんなが誇りに思う未来へ

明治学園高等学校 課題研究
「環境とエネルギー」グループの皆さん
私たちは昨年から1年かけて、風力発電をテーマに、小倉の市街地などで風力を測定して「街なか風力発電」の可能性を探るほか、本校の先生方を対象に風力発電に関する意識調査を行いました。10月には、北九州市で開かれた「世界洋上風力サミット2021」に参加し、研究成果をポスターにまとめて発表しました。また11月には実証研究中の風車を見学し、地上70mの風車の上にも昇りました。最近では、CO2削減に寄与し、北九州の産業振興にもつながる風力発電の意義を伝えるために、小・中学生を対象としたパンフレットの制作も始めています。将来的には、北九州が「洋上風力発電のまち」だということが市内外の多くの人に知られ、まちの誇りになればいいなと願っています。